未完1

幼子が泣いていた。

どうしていってしまうの。

青い大きな瞳からあふれる涙にをぬぐうことしかできなかった、

どうしていってしまうの。

またおいていってしまうの。

そうやって泣きじゃくる幼子に。

ただ、それは神様が決めた運命だからだよ。

そうこたえることしかできなかった。

二度に渡る死は、どちらとも痛みを感じなかった。

死は人を恐怖で支配する、そういうものだが、恐怖なぞなかった。

ただ。

これでよかった。と。

グランゼドーラ第一王子、トーマは二度の死を経験した。

王家のものが、一度死に、再び生き返り、そしてまた死ぬ。

過去に前例のない事件。

そして、この事件は、王家の威厳を揺るがすものであり、二度の生涯を送ったトーマの歴史は。

一部の人の記憶だけに残るであろう。

一度死を経験したものとしては、またあの深く、冷たい場所に落とされるのだろう。

なあに、二度目だ。何も恐怖することはない。

そう思っていただけに、二度目の死からの目覚めは、ひどく暖かいものだった。

幼き日に感じた、母の腕に似たあたたかみ。

なぜだろう。

ここは、すべてを受け入れてくれる。

ここが。

「死者の国、とでもいうのか…」

暗く、生の気配のない場所とは全くの別物。

ここでは、すべての命が、芽吹き、息づいている。

「厳密にいえば違う。」

は、と後ろを振り返る。

赤い鎧を着た男が、不敵に笑っていた。

「死者の国。大きなくくりでいうとそうだ。けれども、ここは死者の国に現れた特異点。」

「特異点?」

「まあ、あれだ。あれ。休憩所とでもいえばいいのか。」

男は隣に腰を下ろした。

「現世に疲れた魂が、ちょいとばかし息抜きする場所なんだ」

「…、失礼ですが、」

トーマが口を開く。

「……。」

男はトーマの方をじいとみて、言葉を吐き出した、

「ザンクローネ」

男の言葉にトーマは唖然とした。

「何故、」

「なんとなくだよ。知らねえ奴が隣でぺらぺら話してたら名前ぐらい気になるのが性分ってもんだろ。」

ザンクローネ。

トーマとてその名前を知らないわけではなかった。

童話作家、パンパーニの描いた、魔女と英雄の物語。

たしかあれは、パンパーニが志半ばで逝去してしまったゆえに、未完だったはず。

盟友と勇者の話の次に好きだった妹のために、これも何度か読み聞かせをしていた。

そのたび妹は言うのだ。

こんな英雄が、グランゼドーラにもいたらいいわね。と。

そんな夢物語に目を輝かせていた少女は。

いまや国をつかさどる勇者になった。

実際に見てなくても、わかるのだ。

二度目の死に際にみた、妹の瞳が、強く輝いているを。

隣で見れないことは、ひどく寂しいことだが。

あの子は立派になった。

それを考えると、なにも悲しさなど感じないのだ。

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